土橋勝征~相手の立場で考える~

私が、ヤクルトの歴代選手の中でもっとも好きだったのは

土橋勝征選手です。

土橋選手はとても地味な存在で、数字で残っている成績もぱっとしないのですが

野村ヤクルトの黄金期を知る人にとってそのすばらしさは

強く印象に残っていることと思います。

ヤクルトの選手をあまりをよく知らない解説者は、

彼のことを2番バッターだったかのように言うこともありますが、

ヤクルトが日本一になった’95年、’97年は

主にクリーンナップを打っていました。

ただ、’95年の土橋選手の成績は

打率.281 ホームラン9本 打点54

’97年は

打率.301 ホームラン8本 打点61

と、

シーズンを独走し、日本シリーズも圧勝したチームのクリーンナップとしては

あまりに地味な成績です。

しかし、ここに土橋選手の神髄があります。

一般に相手の立場になって考えることはよいことだ言われます。

道徳では

「自分が嫌なことを人にするな」
と言いますし

ビジネスでは”顧客志向”が叫ばれます。

では野球のような勝負事ではどうでしょう?

「相手の立場になって考えて、
相手がもっとも嫌がることをする」
ということが出てくると思います。

土橋選手は、その点において、非常に優れた選手だと思うのです。

たとえばこんなシーンがあるとします。

’95年であれば、ヤクルトの打順は

3番土橋選手の後は

4番強打者のオマリー選手でした。

ピッチャーとしては、

土橋選手よりも、次の打者であるオマリー選手が気になるところです。

そんな状況のなか土橋選手

ひたすらファールを打ち続けて、粘ります。

土橋選手を打ち取ったことができたとしても

そのときピッチャーはすでに疲れ切っていて、

次の打者であるオマリー選手の餌食になるのです。

またこんな場面ではどうでしょう。

ノーアウト1塁、相手ピッチャーが好投しています。

ここは送りバントしかないだろう、という場面で

打順が土橋選手に回ってきました。

土橋選手は、当然のようにバントの構えをします。

ピッチャーは、バントを成功させまいと、

ボールを投げたと同時に、バッターに向かってダッシュします。

土橋選手は、バントの構えからヒッティングに切り替え(いわゆるバスター)、

ボールをファールします。

そして、次の投球になると、またバントの構えをします。

ピッチャーが走ってくると、バスターでファールです。

次は、土橋選手はバントの構えをやめます。

ピッチャーがダッシュしないと見ると、

突然バントをしようとして、結局、ボールを見送ります・・・・

などと繰り返しているうちに、相手投手は投球リズムを崩していきます。

実際これどおりの場面があったか分かりませんが、

土橋選手のイメージは、こんな感じです。

つまり、ヒットやホームランを打つ!

(数字として残る好成績をあげる!)

などと自分の立場からみた活躍ではなく、

”その場面において相手が最もしてほしくないことをする”
ということを徹底して、チームを勝利に導いてくれていたのです。

このような打者がクリーンナップにいることにより、

当時のヤクルトは見た目上の戦力からすると

驚異的といえる強さを発揮していました。

その結果、当時の一流どころのピッチャーの多くが

最も嫌な打者として土橋選手の名前を挙げ、

(理由は「何をしてくるか分からない」というものでした。)

また相手チームひいきの野球中継では、土橋選手の打順に回るとアナウンサーが

「嫌なバッター」「いやらしいバッター」「しつこいバッター」

「しぶといバッター」「ねちっこいバッター」等々・・・

ありとあらゆる表現で、悲鳴をあげるという有様でした。

土橋選手の外見はというと、

どこか垢抜けない善良そうな表情で眼鏡をかけていて

”野球選手”というよりは”村役場の窓口の人”のような雰囲気でした。

それがまた、土橋選手のスゴミを増長していたのかもしれません。

もちろん、ヤクルトファンにとっては、

負けムードの試合の空気を一変させてくれる土橋選手は、

これ以上なく頼もしい存在でした。

さて、我々弁護士の仕事も勝ち負けはあります。

そこで、自分の依頼者の相手となる人の立場もよく検討します。

もちろん、ただ徹底的に相手が嫌がることをやるというわけにはいきません。

しかし、相手の喜ぶことばかりしていても仕事になりません。

そのバランスは、事件ごとに色々で、難しいところです。

ただいずれにしろ、相手の立場に立って考え、相手が嫌がること、喜ぶことを把握することは

事件を早期に解決するためには非常に重要なことなので

いつも必死に考えています。

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