Archive for the ‘弁護士勝俣豪の雑感’ Category

逆風慣れ

火曜日, 5月 19th, 2015
法科大学院の入学者が過去最低とのことです。
今回の司法改革を成功というのはなかなか難しいし,これ以上の失敗した制度改革を探すのも難しいだろうと思います。でも,どんな制度でも壊滅的な破壊が,自然界における撹乱(山火事等)と同様に,長期的に見ると有用なのだろうとも思うので,それはそれで長期的な視野も必要なのかも知れません。

いずれにしろ,弁護士業界は,私が弁護士を目指した頃の「とりあえず弁護士資格をとっておけば安泰」というものでは全くなくなっています。社会にとって司法改革が成功かどうかは別として,少なくとも個人の目論みとしては完全に計算がはずれました。

でも実を言うと,この手のことは,私にとって3度目の出来事です。

私は大学生の頃は,哲学者になろうと思っていました。ところが,その矢先に,大学の制度改革のようなものがあって,教養課程の大幅な縮小が行われたようです。そして,それまでは,各大学とも教養課程のために哲学の先生が必要だったのですが,要らなくなってしまい,失職しているようだなんて状況になりました。そしてただでさえ少なくなった職を,失職した人と博士課程を出た人でとりあうような状況になっているとの話でした。なので,博士をでても仕事はないよ,となってしまったのです。
実はもともと哲学者なんていう職はなくって,基本的には哲学文献研究者になるしかない世界です。逆風の業界状況の中で,自分は哲学文献研究者でなく哲学者だなんて言っていても,生活費を稼げるあてはほとんどなく,別の道を考えることにしました。

そこで就職です。もともと哲学者になるなんて大風呂敷を広げた後の進路ですから,なかなかポジティブな動機付けもみつからないまま,あまりハードに働くのも嫌だし,でも給料もそれなりに欲しいなんてみつけたのが信託銀行です。ところが,信託銀行も金融ビッグバンだなんだで,それまでの存続の基盤であった規制が撤廃された上に,入社直後にはさらに多量の不良債権が隠されていたことが判明したりで,もうどうにもなりません。逆風に立ち向かって何とかしてくれようぞ,なんて新入社員が考えるような場ではないですし,根本的にサラリーマンになじめない性格的欠陥の諸々も気づかされて,撤収です。

そんな次第でしたので,司法試験に合格した後の司法修習中に,司法制度改革によって弁護士を大幅増員するという話をきいたときは,「またかよ」という気分でした。でも,さすがにもう逃げていてもしょうがないなあ,とハラをくくることが出来たのではないかと思います。

撹乱後の業界が,撹乱前よりも大幅によくなる上で,当事務所が重要な役割を果たしていくことができれば,と思っています。

クレタ人のうそ

火曜日, 12月 2nd, 2014
面白い研究成果があります。
弁護士の裁判書類作成能力は、新人時がもっとも高く、その後はひたすら
能力が低下していくそうです。
『弁護士の民事訴訟におけるパフォーマンス評価:法曹の質の実証的研究』

http://www.sllr.j.u-tokyo.ac.jp/09/papers/v09part07(ota).pdf
詳細を読んでいくと、10年目くらいまではほぼ横ばい(やや低下)ですが、
その後はグラフは急な下り坂となり、15年、20年、25年、30年とグングン能力が
低下していきます。

プロとしての能力研鑽とは全く逆で、やればやるほど駄目になるということです。
常識的にはびっくりで、研究方法が変なんだじゃないか?と言いたくなりますが、私が感じてきた次の印象とは整合的です。

・司法修習時に裁判所で弁護士の作成書面を多量にみたが、「これはなかなか書けない」と思うようなハイレベルの書面をみたことはなかった。
むしろ、このレベルなら(修行も指導もなく)すぐに作れるな、という印象だった。
・弁護士登録後も、相手作成の書面について、「すごい」と思うレベルの書面には出会えなかった。
・いままで出会った典型的でない訴訟、つまり法律構成に頭を使わなければならない訴訟の大半において、相手方の主張は法理論的には荒唐無稽なものであった。
つまり、法理論と言われているものは、人間様が扱うには少々難しすぎるのではないか。
・自分自身40歳を越えてから、難しいことを考える能力がドンドン落ちてきている気がする。
・弁護士業界の、「会務」をする人を高く評価し、弁護士業務が優れている人を評価する文化・気風がない。

ともあれ、当事務所は、個人法務において圧倒的に質の高い仕事を目指していますので、
この研究については、内部的にじっくり研究して対策を練っていこうと思っています。

ところで、この研究において、パフォーマンスの評価者としては
「弁護士実務を5年以上経験した者であることを最低要件とし、その中で、原則として弁護士登録10年以上の弁護士を選び、さらにその中でも弁護士会で評価の高い熟達の弁護士を選抜した」
とのことです。でも研究成果の結論からすると、この手の人の能力は著しく低いのではないか?
そうなるとこの研究成果の妥当性は???

 
 

山が動く?

金曜日, 11月 7th, 2014
離婚の際に子供の親権者を決める大きなルールに
①母親優先の原則 と
②継続性の原則
というものがありました。

②は夫婦が別居している状況で、実際に子供をみている方がその後も子供をみるべきというルールです。

で、実際に①②を利用すると、母親が子供を連れて別居した場合は、父親は親権や監護権をとるのは ほぼ絶望的ということになります。

①は、男女の役割分担を前提にした社会構造や価値観の中であればともかく、
男女の役割分担意識は因習だなどと言いながら、 母親優先等と言われるとご都合主義的な感じがします。

②は、子供の奪い合いで、先に連れて行った者勝ちにします、と裁判所が宣言しているようなものですから 法治主義の放棄のようなものです。

でも、ようやく変わってきたようです。

法曹時報という裁判官向けの雑誌があります。
最近は、離婚関係の記事(主に離婚に詳しい裁判官が、離婚事件審理上の考え方の基本について書いている) が続いていたのですが、先日は「子の監護者指定・引渡調停・審判事件の審理」という記事がありました。

そこで、母親優先の原則も、継続性の原則も「従来の考え方」として記載され、最近の考えでは、
より実質的に監護権者がどちらが優れているかを考えている傾向にあるとしています。

これは、男側の離婚事件に多く関わってきた弁護士からすると、おどろくべき大きな変化です。
おそらくは、特に②の関係ではハーグ条約の影響があるのだと思います。
②は明らかにハーグ条約の趣旨と矛盾しますから、国内案件だけ、継続性の原則というのは無理だということです。

もちろん、急に父親が親権や監護権をとることができるようになるか、というと当面は何らかわらないと思います。
単に、母親を親権者や監護権者に決める理由として、母親優先や継続性ということを言う代わりに、諸事情を考慮の上 母親が相当と結論づけるだけと思われます。
でも、5年単位で言うと、つまり2原則の影響が十分消えて、実質的に考えるということが定着した上で 裁判官が考え出すと、父親が親権や監護権を取得できる事案も増えていくのではないかと思います。

入試改革2

木曜日, 5月 1st, 2014
以前,ペーパー試験の重視をやめる入試改革に反対するようなことを書きました。
でも,最近,少し思うところもあります。

子供のこともあり,おそらく4半世紀ぶりにサンデー毎日を買いました。
うーん。
受験にほとんど力を入れていない公立高校は
ほとんど,壊滅状況です。

私の頃は,無名高校から予備校もいかずに東大に入った人も
少しはいて「てめーらとは格が違う」というオーラを放とうとしていました。
この類は,もう絶滅してしまったのかもしれません。

弁護士の採用活動をしていても同様です。
以前の司法修習は,頭はよいが社会性のない人の集積所のような面もあり
寄り道感ただよう人はそれなりにいた気がします。
最近の履歴書で,寄り道感ただよう人はほとんどいないので,
これも絶滅危惧種なのでしょう。

ペーパーテストがある以上,より早い段階から準備することが成功確率を高めることは確かで,
多くの人間が,長期間の努力に耐えられずに挫折する中,それを乗り越えて来た人
が優秀で,社会的に有用な活動をする可能性は高いと思います。

でもちょっと多様性がなさすぎないか?
海外の大学を意識して入試改革を考えたとき,
何とかしたくなるのも分らんでもない気がします。

貸金業規制緩和検討

木曜日, 4月 24th, 2014
本日の朝日新聞の記事によると自民党は
借入金の限度を3分の1とする総量規制の緩和

上限金利を20%~29.2%に引き上げることを検討するとのことです。
ネット上で朝日の記事がみあたらないので、日経

総量規制や金利規制ができたときは、
当事務所も多重債務で困っている人がたくさん来ていました。

多重債務問題といっても、弁護士に依頼して債務整理すれば
ほとんどの場合、生活の再建は可能でした。
今の破産制度は、財産のない債務者には、あまりデメリットのない制度ですので
高利貸しと、破産制度というところである意味バランスがとれている印象もありました。
まれに、弁護士がついても、再建が困難な事案はサラ金の事案ではなく
保証人が問題となる、商工ローンか、逆に公的な金融機関がからむ事案でした。

逆に、サラ金というのは、どうにもお金に困ったときに
グタグタ言わずにお金を貸してくれるという面では
社会のセーフティネットの一環として機能しているのではないか?
サラ金がお金を貸してくれなくなると
盗みや強盗を働く人が増えたり、ヤミ金融がはびこるのではないか。

そんなわけで、総量規制や金利規制については、正直
「本当にそこまでしてしまって大丈夫かなあ」と思っていました。

以前に、派遣切りだなんだと言って騒いで、工場への派遣が禁止された折には
多重債務で苦しむ人の一時的な働きの場が奪われ、生活再建の選択肢がせばまったことを
実感しましたので、同様の逆効果が生まれるような気がしていました。

でも、総量規制や金利制限については、その後も犯罪が増えたという話も聞きませんし
ヤミ金が増えた様子もありません。

逆に、多重債務で相談する人は、以前に比べると大幅に減少し、
社会問題としての多重債務問題はおおむね解決しているように思えます。
(多重債務問題解決には、法曹界のアニマルスピリットも大いに貢献したようですが)

つまり総量規制と金利制限という政策は、成功しているように思えます。

そんなわけで、見直しの検討というのは、いまひとつ、ピンとこない話です。

 

stap

金曜日, 4月 11th, 2014
STAP細胞が世の中を騒がせています。

STAP細胞の真偽によって,今の騒動の位置づけも
大きく変わってくるのでしょう。
怪しげな騒動事件なのか,
世紀の発見に伴うエピソードなのか。

哲学というのは,ある意味科学・学問になる前段階の
諸々の知的な営み,という面があります。
ある人の考えを,検証・反証し共有できる状況になって
科学なり学問なりになります。
たとえば,カントの認識論は,そういう検証ができないままですので
カントに対する尊敬に基づいて,その思想を研究することはできても
認識論という学問にはなっていません。だから哲学です。
STAPの有無ということは,哲学・思想ということではなく,
他の人も再現できて検証できるか,ということで真偽を明らかにできるはずです。

そういう点では,小保方氏の会見は,STAPの真偽において何ら意味はないはず。
ですが,諸々で,小保方氏に同情的な意見も多く耳にします
その多くは,STAPも真実なのではないかとの印象をほのめかしています。
これは,弁護士の立場からすると興味深い。
やはり,どのような見た目・属性の人が,どのように発言するかによって
本来,無関係なところについて,心証が形成されるというのが人間のクセなのでしょう。
仮に,落合博満氏のような人が,お前らに言ってもどうせわからないだろうけど
という態度で,概念的にはほぼ同内容のことを伝えたとしても
STAPは真実なのではないか,と思わせることはできなかったように思います。

まあ,科学的に立証できなくても,これだけ多くの人が信じている状況であれば
商業的には価値がありそうです。
リケンのSTAPスープとか,健康補助食品として生き残るのかも知れません。

 

民主主義不適格

木曜日, 4月 10th, 2014
委任不適格とでもいうことがあります。

弁護士と依頼者との間の契約は委任契約と言います。
モノの売り買いのように一回きりではなく継続しますし,
依頼した弁護士の裁量に,ある程度まかせることになりますので
弁護士と依頼者との信頼関係がないと成り立ちません。

マレですが,相談者の中に,弁護士というもの(場合によっては人間全般)
について不信感が強くて,とてもじゃないが,
信頼して任せるなんてできないという方がいます。
そういう場合は,委任契約を締結することはできないので
交渉であれば,裁判であれば自分ですることをお勧めすることになります。
これを委任不適格と呼びます(私が呼んでいるだけで学問用語ではないです)。

さて,最近の安部政権の動きについて,
弁護士会に属しているせいか,朝日新聞を読んでいるせいか
何かよからぬことを企んでいて,日本がとんでもないことになる
とでもいう論調にたびたびふれます。
安部政権がなにをしようが,いずれは選挙があるわけだし,
将来,仮に戦争だなんだという場合も民主主義の枠組みの中できまるはずです。
そして,批判の対象になっている集団的自衛権だなんだということは
他の民主主義の先進国では当たり前のことで,別に邪悪な国家のマネゴト
をしようとしてるわけではありません。
結局のところ,批判の根っこにあるのは,他の欧米諸国と違い
日本の民主主義は機能しないに違いない
という民主主義に対する不信なのだろうと思います。

民衆の多数決に信頼して任せるなんて,とんでもない。
ろくでもなく,おそろしいことになる。
別にこれは,珍しい考えではなく,
そういう考えに基づいて一党独裁を行っている国も多くあります。

まあ,世の中全体のことを真剣に考えて思い詰めれば詰めるほど
おかしな考えにとりつかれて,先鋭化するというのが人間の悲しいサガですので,
なんともいいようもありませんが。

 
 

考え

火曜日, 12月 17th, 2013
特定秘密保護法に関連して
戦前のようになってしまうかのような話が出ていました。
同法の評価はさておき,
いわゆる望ましくない社会を生み出す考えは思わぬところにひそんでいます。

まず,代表的な考えは
資本主義を憎んで,社会的弱者の善良性を訴える考えです。
この考えに取り憑かれると,正義感にうちふるえて
多くの人が残虐行為に走ります。
ナチスドイツやポルポトが典型です。
こういったものは,一見わかりやすい邪悪な考えにとりつかれたのではなく
いかにも善良そうな正義感に訴えかけたからこそ,起こりえたのたど思います。

また,啓蒙的な考えもなかなかです。
啓蒙が好きな人は,思想の自由を認めるそぶりをしますが,
実際は認めません。
自分と違う考えの人が,正しい考えにいたるまで議論を続けます。
権力を握るといわゆる教育施設を作り上げます。
正しい考えが身につくまで,施設から出ることはできません。

こういう考えの人と特定秘密保護法に強く反対している人というのは
私には重なって見えなくもないので,なんとなく皮肉な感じがします。

 
 

脱原発

水曜日, 11月 13th, 2013
最近,小泉元首相の脱原発発言が
話題になっています。

政治的影響力の強さは,おいておくとしても
この意見には,ある種の驚きとともに
重みを感じています。

私は,原発の問題はおおっぴらには
言えないものの国防の問題と密接に結びついている
と思っていました。

ひとつには,以前,確か中曽根元首相のインタビュー記事で読んだ記憶がありますが
太平洋戦争に突き進んだ一因として,石油の供給を止められる恐怖があり
二度とそういった要因で戦争を起こさないために,エネルギーの多元化をするめる
という発想。

もうひとつは,いつでも核武装できる体制を整えることで
核抑止力を発揮したり,アメリカの核政策の一翼を
担ったりする

こういう問題があるのだと,漠然と考えていて
そう言った問題について,しっかり考えるだけの情報がなければ
原発を維持するかどうかという問題に対し
よりよい意見は持てないと思っていました。

ですから,こういった問題意識が欠落した人が
脱原発と言っても,今ひとつ説得力を感じていませんでした。

でも,小泉元首相となると違います。
当然,こういった問題も考慮した上での意見と推察されます。

はたして,今後,どういった広がりがあるのか興味深いです。

入試改革

金曜日, 11月 8th, 2013
センター試験を廃止して、人物本位の大学入試にする
なんてことが報道されています。

私は,センター試験第1期生なので感慨深いです。

世の中には、自分は人間としては優れているのだが
一発試験に弱かったために、社会から不当な扱いを受けている
と思い込んでいる人間がいて
自分のような人間として優れている人間が
正当に評価される社会を作るべきと考えて
色々と画策するようです。

そのような新制度に基づいて,いわゆる一流大学に入っても
企業なり社会なりは,その人を従来の一流大学卒のようには
扱えるわけがありません。
そして,一流大学卒の扱いを期待して,入学した人は期待はずれとなる

そういえば司法試験改革も、似たような方向性でした。
まあ,司法改革と同じような効果が期待されるところです。