Archive for 12月, 2018

この1年で読んだ本

火曜日, 12月 25th, 2018
新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで
免疫という言葉はよく出てくるけれど,実際の仕組みは何となくのイメージしかありませんでした。そのあたりがだいぶ明確になりました。
完全に理解できたわけではないですが,わかりやすいです。

自然言語処理の基本と技術
流行りのAIですが,昨年,ディープラーニングなるものの基本的なプログラムを写経的に書いてみたりして,なんとなくイメージはつかめました。でも,画像認識はともかく,こんなやり口で言葉を処理なんてできるのか?というあたりの疑問から読んだ本。
おそらくのところ,PCの日本語入力システムがおかしな変換をしていたり,自動翻訳が変だったりする限りは,AIが日常会話に対応できるるまでに遠い道のりがあると考えてよさそうです。

アフリカ 希望の大陸 -11億人のエネルギーと創造性-
本を読む理由の一つは自分の常識感を壊すことにあります。正直,現代アフリカはほとんどイメージがなかったので,そんなことを期待して読んだ本。

残酷すぎる成功法則
タイトルはうさんくさいのですが,とても良い本。
なるほどと思うような,研究成果が多数,紹介されています。

江副浩正
ビジネス書の中でリクルート本(リクルートがいかすごいか,リクルートではどういう仕事の仕方をしているか)というのは一つのジャンルと言えます。
そのリクルートを作った江副氏を比較的に好意的に書いている伝記。
リクルートの株のほとんど手放した後に,リクルート幹部等からの冷ややかな対応をされた件は,身につまされます。

「病は気から」を科学する
面白かったです。
多くの薬の効能はプラセボ効果による。
劇的に聞くと評判の薬がプラセボと同程度の効果しかなかったので,医学的に効能がないということになった。でも,プラセボでもその薬でも,多くの患者が治っていた。
(以下,本の内容でなく私の印象)
医学的に正しいことと,病気を治療したり症状を軽減したりするために大切なことは,矛盾することも多いということでしょう。
抗生物質は医学的には風邪には聞かない。でも抗生物質を欲しがる患者の多くは,それを飲むとプラセボで風邪が治る(少なくとも自覚症状では元気になる)のではないかと思います。
医者の対応として,どちらが正しいとは一概にはいえなかろうと思います。

ティール組織-マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
自主運営組織について,様々な事例を取り上げている本。
当事務所の運営について,企業型運営に疑問を感じている中で,さらに管理をやめてみようと思うきっかけになりました。
もともと当事務所は自主運営的要素が強いとは思いますが(この本に取り上げられる程ではないにしろ),今年はさらに実験的に踏み出しました。

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか
実績を上げたら○円上げるというモチベーション管理が機能するのは単純作業だけで,多少でもクリエイティブさが要求される仕事には逆効果
ということのようです。人間が直感的に有効と思って実践している,人間の管理方法(言うことを聞かなければ怒ってみる,お金を目の前にぶら下げれば頑張る)は多くの実験によって有効性が否定されている。が,ビジネスの現場では,未だに旧来の管理法が幅を効かせているということらしい。
事務所運営をしていて納得いく部分も多くあるが,完全にそうとは言い切れないと思う部分も。不動産の営業のような仕事から歩合の要素をなくしてうまくくとも思えない,とか。いずれにしろ,この問題は難しい。

脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方
それなりに面白かったです。
ただ,この手の翻訳書の中では,論証にゆるさを感じました。

マルクス・アウレリウス 自省録
ひとつくらいは古典をということで。
大学の頃に色々哲学書を読んでいた頃は,ローマ時代は軽視していました。でもがっつり読むエネルギーを注げない状況では,ローマ時代の軽さはちょうどよいです。

集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ
「会議や議論はたいてい意味がない」というのが現時点での私の印象です。でも,アメリカの快進撃企業の本を読んでいると議論の重要性がよく説かれています。いまいち理由がつかめない中で,グーグルの本に書いてあったのが「集合知」という概念。どうも,集団のほうがよい結論を出せるという理論があるらしい。ということで読んでみた本。
でも集合知が機能する場合も,情報源の独立性を保つことが肝要なよう。そうであれば会議や議論するより,個別に意見聴取したほうがよい気がします。そうすると集合知の理論は会議・議論有用説の論拠にはならなそうということで,会議有用論にはなりませんでした。
前記のティール型組織にも取り上げられていますし,当事務所でも行っているように,意見聴取だけして,どんどん進めるほうがよい場合が多い気がします。
本自体は,日本人が書いている本とは思えないくらい,思考の質が高いです。

失われてゆく,我々の内なる細菌
今年は少なめでしたが,細菌系。ピロリ菌除去がトレンドですが,ことはそう単純ではないらしい。

未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界
日本の司法もこれから5年10年で大幅にIT化をすすめるようです。
電子政府の基本となるのはマイナンバーのようです。
たまに住民票や印鑑証明等をとりに行きますが,大半は,それを別の役所に提出するためです。日本中で,ある役所から書類を取り寄せて,別の役所に提出するということをしていますが,このような無駄がなくなるということなのでしょう。

生物から見た世界
自分の長期的な課題のひとつは,空間や時間が人間の主観的な枠組みにすぎないことを自分なりに納得することです(カントからの宿題と思っています)。
色は,電磁波のうちの一部の波長について,視神経が勝手に色にしているだけなので,人間の主観的な枠組みであることはわかりやすい。
因果関係も,人間が因果関係を見いだすものの多くは,間違っていることが多いこと,無数の出来事の複雑な相互関係について単純な因果関係を見いだすことが無意味なことからも,主観的枠組みに過ぎないことは納得しつつあります。
空間や時間は,なかなか難しいです。感覚器官が全く異なる生物の世界は,この問題を考える上での様々な示唆を与えてくれます。

ファスト&スロー(上)(下)
すごくよい本です。この何年かで読んだ本の中でナンバーワンです。
法律書ではないですが,弁護士を職業にするのであれば,是非読むべき本と言えます。
所内での掲示板に,この本等の行動経済学や心理学が弁護士実務にどのような示唆を与えるかの連載をし,既に1万3000字程の原稿量になっています。
なぜ,負け筋の依頼者は和解で強気になるのか,等。

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム
こういう話を「理論」と呼ぶのはどうか?という感じ。
個々の消費者ごとの物語を想像してみましょう。そうしたら何か思いつくかも。
という話です。

コンテナ物語
コンテナによって海運が変化していった流れを追った本。
イノベーションというものが,いかに予測不能な形で様々なことを変えていくのかというダイナミズムはとてもおもしろいです。先のことはわからないとしか言いようがない。

偶然の科学
ファスト&スローがとても面白かったので,同系の本を読みたくて購入。
前半は結構面白かったです。

NETFLIXの最強の人事戦略~自由と責任の文化を築く~
社員は仕事をするために。を徹底しています。
仕事に必要な限りで徹底的に高待遇。今後の仕事に必要がなければ,そこで契約終了。
を徹底しています。

誰もが嘘をついている~ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性~
「人間とはこういうもの」ということは,人間は色々な考えを編み出しますが,たいていのところデタラメです。ですから,「こうなんではないか」と思っても,おしゃべりで話すだけならともかく,実際に重要な行動に移すためには,データの裏付けを意識する必要があります。でも,ふつうはそのようなデータがとれることは多くありません。
ただ,誰がどのような言葉を検索しているか,というデータが入手できる様になり,少しだけ,裏付けをとれることがらが増えたといえます。

昨日までの世界(上)(下)~文明の源流と人類の未来
人間の認識構造を理解する上で,脳の構造,生物学の本,人工知能の本,心理学の本といったものは興味深いです。これと並んで,全く異文化,特に原始的な生活を送る人間がどのようにしているのか,ということは示唆が多いといえます。
ただ,銃・病原菌・鉄の方が,切れがあって面白かった気がします。
狩猟採集民のほとんどは,ほとんど塩分をとっていない。精製塩がないから,当たり前で,生の植物や肉に含まれているわずかな塩分のみを摂取しています。
(以下,私の印象)そう考えると,運動したら塩分が必要だなんだという現代的な推奨も,眉唾な気がします。そうしないと熱中症になりやすい体質の人もいる,自分がそういう体質かもしれないから,念の為,摂取しておきましょう。というレベルの理解が正しいものと思われます。

無為の為

木曜日, 12月 6th, 2018
老荘思想に無為の為という言葉があります。
高校の頃に触れて,ただ何もしないのではなくて,なさないことをなすのだと言われても
いまいちピンと来ませんでした。
私は怠け気質なので,そんなこと言われなくても何もしませんよ という気分で,それ以上は屁理屈感を感じていました。

とはいえ,逆説的,天の邪鬼的な言葉は好きなので,常にひっかかっている言葉でもありました。

なんとなく,感覚的に理解できたのは,つぎのような比喩を思いついたときです。
かゆいのを我慢する。
かゆくなれば,思わずかきたくなる。それをしない。これが無為の為なのではないか。
かゆいのにかかないというのは,なかなかエネルギーのいる無為です。
そして,かゆいからといってかきまくっていると,それなりにダメージが出ますので,無為を為すことが大事です。

でも,かゆさの問題以外には,いまいち発展性がありませんでした。

ただ最近のように仕事のメインが組織の運営になってくると,仕事上の「かゆみ」のようなものが色々と出てきます。色々と口を出したくなったり,色々と企画したくなったりします。
そして,30人程度の組織の運営をしていると,たいていは自ら実務に直接携わる機会は減り組織をよりよくするための仕事をしたくなります。
会議をしたり,朝礼をしたり,組織の理念を作り上げて皆に浸透させようとしたり,
頑張っている人に報いるために複雑な評価システムを作り上げたり
業績がいまいちな人に発破をかけたり
経営計画を立てたりと,経営者として殊勝な行いをしたくなります。
これが「かゆみ」なのではないかと思うのです。
もちろん,これらが無駄なのかどうかはわかりません。
でも老荘思想的な発想からすれば,
そういうことはしないほうがうまくいく
ということであり,これが無為の為なのではないかと思います。

老荘的なリーダー論では
一番よいのは,そういう人がいることを知られているだけ
二番目は,親しまれて褒められる
つぎは,恐れられる
一番ダメなのは,あなどられる
というのがあり,これは好きな言葉の一つです。
それを支えるのが,かゆみに耐える,かいた瞬間の快楽の誘惑に耐える
「親しまれたい」「褒められたい」という快楽の誘惑に耐える
ということなのかな,と思います。