Archive for 9月, 2022

仮想通貨に対する強制執行

水曜日, 9月 21st, 2022

仮想通貨に対する強制執行には様々な問題があります。まずは、他のサイトや書籍等でも書かれていると思われる基本的な考えをまとめた上で、その先の問題について書こうと思います。



基本的な状況



仮想通貨の中でもビットコインに対する考察が基本となります。その上で、ビットコインは所有権の対象となる物でも、債権でもないということになります(何であるかについては諸説あります)。
仮想通貨の保存場所として、取引所に保管している場合と、個人的にウォレットで管理している場合に区別します。



取引所に保管している場合



債務者が取引所に仮想通貨を保管している場合は、証券会社に保管している株式や投資信託に対する強制執行と概ね同様であり、大きな問題はありません。
取引所自体が裁判所の手続きに不慣れなこと、多少は法的性質について議論する余地もあること、書式等がまだ洗練されておらず思わぬ漏れが生ずる可能性があること等の小さな問題はいくつか予測されます。



個人のウォレットで管理している場合



債務者が個人のウォレットで管理している場合、仮想通貨が物でも債権でもないという性質が全面に出てきます。物や債権を前提にした強制執行手続きを直接的に利用することが難しくなります。
秘密鍵を入手できていれば、執行官とともに試行錯誤しながら、最終的には強制執行を奏功させることは期待できます。しかし、秘密鍵が入手できない場合、とりうる方法はなく、強制執行は事実上不可能となります。



発展的検討



上記の議論からはずれた部分について検討します。



海外の取引所で仮想通貨を管理している場合



債務者がバイナンス等の海外の取引所で仮想通貨を管理している場合も、理論的には国内の取引所管理と同様ということになります。しかし、下記のとおり、現実的には強制執行は難しいものと思われます。
なお、海外の銀行口座等でも同様の問題はありますが、仮想通貨の外国取引所の利用は敷居が低いので、海外の銀行口座に比べると問題になりやすいと思われます。



第1関門 債権執行の国際的管轄



 債権執行の国際的裁判管轄については明確ではありません。なので、とりあえず日本の裁判所に申し立てをすることになります。
 しかし、裁判所が管轄を認めるかどうか、は何とも言えないです。
 仮に日本の裁判所が管轄を認めない場合は、海外取引所の本拠地で執行申してをすることになります。場合によっては、はじめから判決の取り直しが必要かもしれません。しかし、そこまでする価値がある事案はレアだと思われます。



第2関門 日本の裁判所の命令に従うかどうか



 日本の裁判所が差押命令を出したとして、それが海外取引所に届いたとします。しかし、海外取引所が、それに素直に応ずるとは限りません。
 海外取引所が差押命令に応じた場合、債権回収はうまくいったといえます。
 応じない場合、次の手段を取ることになりますが、見通しは難しいです。



第3関門 取立訴訟の国際的管轄



海外取引所が日本の裁判所の差押命令に応じない場合、海外取引所を相手に取立訴訟を提起するというのが日本法での流れになります。
この裁判の国際的管轄が認められるかどうかも、民事訴訟法の規定がインターネットでの仮想通貨取引を想定していないことや、国際的管轄合意の内容等により左右される可能性があることから、やや不透明です。
これも日本で管轄を認められない場合に、海外で裁判をする実益がある件はレアだといえます。



第4関門 海外取引所に対する執行の国際的管轄



取立訴訟に勝訴した場合、海外取引所の財産に対して強制執行ができます。しかし、この強制執行について日本の裁判所でできるかは、やはり不透明です。



第5関門 海外取引所に対する強制換価



日本の裁判所の強制執行命令に海外取引所が従わない場合、強制的に海外取引所の財産を換価できることになりますが、現実的に日本に財産を持っていない海外取引所に対して、どのような手段がとりうるのかというと悲観的な見通しになります。



ビットコイン以外の仮想通貨について



次に、ビットコイン以外の仮想通貨(及び仮想通貨的なもの)について検討します。
ビットコインについては、管理者が想定できないことから、債権ではないことになり法的問題が色々と発生しました。しかし、それ以外の仮想通貨についても、同様な議論が成り立つかというと、一概にそうとは言えません。
仮想通貨は、基本的にはブロックチェーン上の台帳記載に過ぎません。誰がいくら送金した、ということがが記載された台帳です。ビットコインについては、台帳の記載以外に何もないのですが、通常の債権債務の譲渡をブロックチェーン上に記載してもよいわけです。その場合は、ブロックチェーン上の記載は債権を表していることになります。



ステーブルコイン



ステーブルコインコインというものがあります。ドルや円等に連動した仮想通貨です。
様々なものがありますが、日本で解禁されるにあたっては、発行者の資格が制限され(つまり管理者が存在する)、いつでも円と交換できる形になりそうです。
となると、その仮想通貨は発行者に対する債権と考えることができそうです。ビットコインの議論が当てはまる可能性はないだろうと思います。



ユーティリティトークン・ガバンストークン



ユーティリティトークンとは、ゲーム等のサービス内で利用できる仮想通貨です。ステーブルコインのように金銭債権ではないですが、その通貨と引き換えにゲーム内での一定のサービスの提供を受けることができるわけですから、ゲーム提供者に対する債権と考えることができます。
ガバナンストークンは、何らかの組織に対して一定の地位があることを示す仮想通貨です。意見表面の権利があったり、方針決定の多数決に参加できる等、株式的なものといえます。
ユーティリティトークやガバナンストークンの中には、市場で取引され価格がついているものもあります。
強制執行を考える上で、金銭債権ほど容易ではないですが、ビットコインの議論が当てはまる可能性は少ないだろうと思います。強いて言えば、ゲームの提供者や、組織の運営が完全に分散化されて、提供者が想定できない状況になった場合に、ビットコインの議論が当てはまる可能性があります。



プルーフオブオーソリティのネイティブトークン



誰でも利用できるパブリック・ブロックチェーンにもいくつか種類があります。ビットコインは、プルーフオブワークといって、ブロックチェーンを構成するコンピュータ(ノード)に誰でも参加できます。なので、全ノードを管理する誰かを想定することは困難です。
ところが、プルーフオブオーソリティという方式もあります。この場合、ブロックチェーンを構成するコンピュータに誰でも参加できるわけではなく、特定の企業や組織が管理するコンピュータのみが参加できる形になります。バイナンス・スマートチェーンが一例です。ブロックチェーンを構成するコンピュータを管理するものとして、バイナンス社を想定することができます。
バイナンス・スマートチェーンを利用するのに必要なネイティブトークンがBNBです。ブロックチェーンの提供者であるバイナンス社に対して、利用を請求する権利を示すと考える余地があります。
この場合も、ビットコインとはだいぶ異なり、債権と考える余地があります。



プルーフオブステーク・プルーフオブワークのネイティブトークン



パブリック・ブロックチェーンのうち、プルーフオブステークやプルーフオブワークの場合、ブロックチェーンを構成するコンピュータ(ノード)に誰でも参加できます。ただ、イーサリアムやソラナ等はいまだ様々なアップデートを行ったりしています。つまり、ブロックチェーン全体の方向性を仕切る集団がいるということです。
その集団に全権があるわけではなく、ある種のアップデートについて意見が分かれる場合は、ハード・フォークといってブロックチェーン自体が分岐していしまいます。最近も、イーサリアムがプルーフオブワークからプルーフオブステークに移行するにあたって、反対派が分岐しています。
とはいえ、ビットコインのように完全に管理者特定不能というわけではなく、一定の管理者が想定できるといえます。
そうなると、イーサリアムにおけるETHのようなネイティブトークンは、イーサリアムというブロックチェーンの利用料として想定されているので、イーサリアムの管理者に対する債権と考える余地もあります。



小括



このように、ビットコインについてなされている議論が、他の仮想通貨についても通用するかというと一概にそうとは言い切れません。かといって、ビットコインだけが特別であって、ビットコイン以外はすべて債権というのも難しいのではないかと思います。ビットコインも、初期はサトシ・ナカモトのグループが色々と仕切っていたようですので、徐々に分散化していくイメージがあるといえます。
もっとも、仮に債権と言える余地があるとしても、たいていその債務者(執行における第三債務者)は、海外の組織であり、債権の準拠法も日本法以外ということになり、現実的に執行するのは海外の取引所に対する執行よりもハードルは高そうです。
とはいえ、管理・提供組織が国内組織の場合だったり、額が非常に大きい場合等では、その仮想通貨がは債権と言える余地がないかは検討に値するのではないかと思います。



動産執行で、秘密鍵・パスフレーズを探すべし



最後に少し毛色の違う補足です。債務者が、仮想通貨を、取引所ではなく自らウォレットで管理している場合、秘密鍵がわからない限り強制執行は困難とされます。
逆に言えば、秘密鍵を入手できれば強制執行の余地がでてきます。
また、通常のウォレットでは秘密鍵では管理が困難なため(意味不明で長い文字列)、パスフレーズという12語または24語の英単語を利用することが多です。
いずれも、通常のパスワードのようにメモ帳やパスワード管理ソフトに簡単にメモしておくには、少し長いです。そのため、印刷してどこかに保存してある可能性があります。
なので、動産執行によって自宅を探す場合に、秘密鍵やパスフレーズを発見できる可能性は、通常のパスワードよりは高いのではないかと思います。
PC内のファイルとしてメモしていている可能性もあります。もし合法的にPCの中をみることができるのであれば、探してみる価値はあるといえます。
なお、秘密鍵やパスフレーズの保存先として、PC内がよいか、紙で印刷が良いかは一長一短です。PCのウイルス感染の危険からすると、紙で印刷のほうが良いですが、家族等や動産執行で見られる危険からするとPC内のほうが安全です。

NFTの法的検討:クリエイター側視点で

木曜日, 9月 8th, 2022

NFTアートについては、2021年に大きく盛り上がりましたが現在は下火になっているようです。
NFTという方式がデジタルアートに適しているのかは、まだ不明です。ただ、今後、主流な方法になる可能性も十分あるので、それを見据えて検討します。



なお、NFTの法的性質論の前提として も参照ください。



NFT化自体には特殊な効果や意味はない



NFT化するというと、なにか特殊なデジタルな物や権利が発生するようにも思えます。また、メディアであたかもそのように宣伝しているようにみえます。しかし、現状を前提にする限り、そのようなものではないようです。
NFT化するということは、ブロックチェーン上にデジタルアートを登録するということです。
ブロックチェーンは分散型台帳です。NFT化するということは、特定のデジタルアートを台帳に記載するということです。自分の紙のノートやPCに、自分のアートの名前と番号と保存場所url、誰かに譲渡した場合はその相手を記載しておくのと本質的に変わりません。データの保存場所が、自分のPCと違い、
・管理者が分散化されていて特定しにくこと、
・誰でもみることができること、
という点が違うだけです。



なぜ、NFTが特殊なデジタル物や権利であるかのように説明されるのか



ブロックチェーンの大成功例がビットコインです。
ビットコインについても、基本的には送金のやりとりの台帳の記載に過ぎません。
ところが、多くの人がビットコインに価値を認めるに至って、通貨のような価値を持つようになりました。ブロックチェーン上に、特殊なデジタル財産としてのビットコインが生まれたのです。
これは、本来ただの紙切れにすぎない紙幣に、人々が価値を見出すようになったというのと似たような状況です。ブロックチェーン上の記載自体は紙切れに過ぎないといえます。



ただ、すべてのブロックチェーン上の仮想通貨がビットコインのように価値があるものと見ることができるわけではありません。現状、ブロックチェーン上で自分独自の通貨を発行するのは容易ですが、それにビットコインのように価値が発生する可能性は低いです。



NFTについても基本的には紙切れ同様の台帳の記載といえます。あとは、ビットコインのように人々価値を見出すかがです。
そのような中、NFTアートが爆発的な価値をつけ、高額の取引事例が沢山発生しました。となると、ビットコイン同様、なにか特殊な権利であるかのように扱える可能性があるということになります。
ただ、この状況が継続的に続くのかどうかはまだ不明です。



また、NFTにおいては、その発行元となるスマートコントラクトのアドレスが信用の基本となります。誰でもNFTの台帳に記入することできるので、コピー品のNFTの作成も容易だからです。
そこで、あるスマートコントラクトアドレスから発行されているNFTに価値があっても、他のスマートコントラクトから発行されているNFTは全く価値がないということになります。
これはビットコインと、無数の無価値の仮想通貨と同じ関係といえます。もっとも、仮想通貨と違ってNFTの場合は、個々のトークンに個性があるので、同じスマートコントラクトから発行されていても、同じ価値というわけではないという違いがあります。



本来、台帳の記載にすぎないNFTが特殊なデジタル物や権利であるかのように説明されるのは、ビットコインが成功していること、一部のNFTアートの成功によりNFTアートについてもビットコイン同様の成功の可能性があること、が理由といえます。



NFTと各国での著作権法との関係



WEB3.0とかメタバースとかいったことが実現した場合に、大きな影響があるのが各国の法規制です。どこでもない場所において様々な国の人々が集まって取引等をする場合に、特定の国の法律の適用が問題になるのかは興味深いです。
各国の法規制がないことによる不都合もあると思われますが、
・生命身体に対する危険はないこと、
・既存の各国の規制の大半は過去の遺物であって今現在適用することが合理的でなものも多いこと
から,むしろ積極的側面が多いかもと思います。



著作権法でいえば、現在の法規制はアナログ的な印刷録音技術が発達したある時代の状況を前提に成立したものと言えます。
それ以前は、そのような保護はなくても偉大な文学・音楽・絵画は沢山つくられたので、それがないと芸術が保護されないということはないです。
また、現在のデジタルな技術背景からすると、著作権法がどうにもならなくなっていることも明確です。ただ、著作権法による規制を前提にある種の職業が成立し様々な権益が成立している以上、各国において著作権法を抜本的に変えることは難しいのだろうと思います。
ですが、新たに成立したWEB3.0とかメタバース上においては、このようなしがらみのない新しいルールの適用をしたほうがよいのではないかと思います。Web3.0成立以前の権利を無理にWEB3.0上でも確保しようとするのではなく、WEB3.0上でよりクリエイターが活躍しやすいルールをつくったほうがよいのでは、ということです。



NFTの法的権利



NFTというのは台帳の記載にすぎない以上、NFTの法的権利という概念自体に違和感があるといえます。ただ、創った作品をNFT化して、誰かに譲渡した場合に、自分にどのような権利が残り、譲受人にどのような権利があるのかは重要なところです。
しかし、これも何ともいえないということです。もしある程度明確にしたいのであれば、自分でNFTをミントする際に、譲受人にはどのような権利があるのかを決めて伝えたり公示したりする。ということになると思われます。著名なNFTアートのCyptoPunksで





という記事があります。しかし、このように明確にしようとするのは現状では珍しいといえます。下手なことを書いて必要以上に権利を譲受人に与えてしまうリスクもあるので、明確にしたほうが良いとは必ずしもいえません。
譲受人に何の権利がいくのか明確にしていない場合は、日本法だと、一般的にNFTの取引ではどういう権利が移転するのか、とか、売った人や買った人はどういうつもりだったと想定するのが合理的か、を考えることになります。が、前述の通り、日本法解釈にどこまで意味があるのかは疑問です。



なお、日本での楽天やLINE等がやっているプライベート・チェーンでのNFTであれば、規約は当該会社が決めていると思われるので、その内容になるのだろうと思われます。



将来を見据えて何をしておくべきか



今、作り出したキャラクターが、将来、メタバース上で大人気になったとする。そのキャラクターを勝手に売り出して儲けている人もいる。
このような状況下で、キャラクターを創った人に一定の権利が認められるルールが成立する可能性があります。ただ、この場合、そのキャラクターを自分が創ったのだということを、どのように証明するのでしょうか?



現実世界での投稿された雑誌等を材料に判断するということはなさそうな気がします。このような場合に、NFT化しておくと、特定の日に特定のデジタルアートをミントしたということを証明しやすくなると思います。
そして、どのような形でNFT化されているかによって信用性は異なるので、



  • イーサリアムのようなできるだけメジャーなブロックチェーン上で、かつ、
  • できるだけメジャーな方法でNFT化しておくのがよいのではないかと思います


イーサリアムでのNFT化はコストもかかるので、沢山の画像データをNFT化する場合は、PolygonだったりSolanaだったりより安価にNFT化することも考えられます。ただ、10年後なりの将来から振り返ったときの信用性という点では、できるだけメジャーな方が良いので、費用対効果での判断になろうかと思います。
なお、ブロックチェーンの種類(法的問題の前提)も参照



また、NFT化するといっても、画像データ自体はブロックチェーン上のに登録されるわけではないので、画像データの改ざんが容易な場所に保存していると、後に差し替えたのではないかという疑念を払拭できなくなります。
そうなると、何らかのルールや判断の枠組みを作るときに、メジャーなブロックチェーン上でNFT化されていればそれでよいということにはならず、NFT化した場合の画像データの改ざんがないことについて一定の信頼がある方法でのNFT化されていることが肝要となることが予測されます。
できるだけ変更履歴が残り、変更履歴の改ざんも困難な方法で画像データの保管がされていることが重要です(IPFSであれば、これが実現できているのかは、まだ不勉強でよくかってません)。