この1年で読んだ本


今年は,途中で嫌になって,読むのをやめた本が多かった印象です。読みだした本はたいてい最後まで読みます。でも,今年はそれなりに頑張ったけど,これ以上は時間の無駄と思ってやめた本が5,6冊あります。
外国の本で,翻訳されて,さらにKindleで読めるようになっている本は,ある程度よい本が多かったのですが,今年はだいぶはずしました。まあ,年をとって短気になっただけかもしれませんが。
そういう中で,最後まで読み通した本です。



植物はそこまで知っている 感覚に満ちた世界に生きる植物たち
空間という概念は必然的とはいえない,と考えたときに,仮に木に意識があったとした場合,木は自ら動くこともできず,飛来物をよけることもできないので,空間概念を持たない世界観を持つのではないかと思っていました。
木が意識,というとバカらしいかもしれませんが,この本にあるように,植物にそれなりに感覚器官があることは明らかです。そのあたりで,何かヒントがないかと思って読んだ本。



脳はいいかげんにできている その場しのぎの進化が生んだ人間らしさ
脳は感覚刺激をもとに世界を作り上げている。目は実際にはキョロキョロ動き続けているのに,静止した世界を見ている気がしている。時計の秒針を見た瞬間,1秒より長く止まっていたように感じるのもその作用。秒針を見た瞬間,時計の針は止まっていたので,それを元にそれ以前も静止していたという記憶を脳が作り上げたということ。
痛みと不快感は,別物。脳の一部を損傷すると,痛みを感じることはできるが,それを不快とは感じなくなる。とのこと。
こういう痛み止めがあるとよいなあと思います。



西洋の自死―移民・アイデンティティ・イスラム
移民の大量受け入れをしているヨーロッパでは大変なことになっているという本。イングランドとウェールズにおけるもっとも人気のある男児名は、モハメッド(異なる綴りもあわせる)とのこと。
そもそも,福祉国家(貧乏な人に最低限度の保証を国家がするということ)と(経済)難民の受け入れというのは,両立しえないことは明らかだろうと思うのですが。



知ってるつもり 無知の科学
人の知識は社会的コミュニティーの中で働くようにできていることらしい。誰かに聞けばわかることは,自分でもわかっている気がしてしまって,覚えようともしない。なるほど。
個人単独の能力より、社会的コミュニティーの知識をうまく使える能力が肝心とのこと。



美しき免疫の力 動的システムを解き明かす
免疫の仕組みは複雑すぎて,一概に何とは言えない。ということのようです。
人間は,古来,病気を治そうとしたり,健康になろうとしたりして,人間の持っている認識ツールを使って,「こうすれば治るはず」「これは健康に良い」とかやってきましたが,ほとんどうまくいきません。現代の医学でも,〇〇の物質が○に効果があった,とか,動物実験では成功した,とかいうあたりから,ごく自然に推論して人間に試しても,たいていダメです。
免疫細胞は種類が大量にある上,同じ免疫細胞でも全く別の作用(あるときは免疫を制御し,あるときは促進する)したりということのようです。人間の認識作用では,物事を分類して,同じものは同じ作用をするという認識構造を使いますので,いくら考えてもよくわからないということになりそうです。このあたりの免疫の複雑さが,人間が思いつく医療や健康法がうまくいかない原因にも思えます。
巷にあふれる健康情報で,「〇〇で免疫細胞が増えたので健康に良い」なんて言いますが,免疫細胞が増えたとうことは炎症が発生している,とか,病原菌が入ったということなのでは,とも思えます。
風邪を引いて,色々症状がでるのは免疫反応のようです。体を温めると免疫が活発になるとか言って,布団にくるまると鼻水が止まったりしますが,鼻水がでるのも免疫反応なので,むしろ免疫反応が弱まったのでは,とも思えます。
つまるところ,免疫の反応は複雑すぎて,人間の認識や推論を受け付けないのではないかという気がしてきています。



明日の幸せを科学する
人は,「こうなったよいのに」「こうしてほしい」とか色々要望を持ってるけど,その要望がかなっても,思ったようにうれしくなったり,幸せになったりしない。
逆に,「こんなことが起こったら耐えられない」と思っていたことが実際におこっても,意外に平気でいられる。
出来事が起こることによって,基本的な考え方や価値感が変化するのが原因。そして,その変化を人は覚えていないし,認めない。
ということで,自分や人様の現時点での考えや希望については,話半分未満でとらえておくことが肝要。





「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき
 議論や話し合いにそれほど価値があると思えていないので,そのあたりの認識を改めたいと思って読んだ本。
 でも,この1年で読み通した本の中では,ワーストです。自分の意見と違うから投げ出した,ということになる罪悪感から,読み通しましたが。
 残念ながら,著者は自分の書いていることや,やっていることを理解できていない感じがして,説得力が乏しいです。多様な集団が,優秀な集団に勝つことになるモデルを提示していますが,最終的には前者が勝つような前提を作っているようにしか思えない・・・。著者のいう真理とはトートロジーということですかね。



進化心理学から考えるホモサピエンス 一万年変化しない価値観
世の中にはジェンダーがどうのとか言う人がいます。私は,そういうことを言う人は動物番組を見たことがないのだろうか?人間以外の動物は雌雄で役割分担があるのに,人間の男女の役割分担だけが社会の呪いだというのは,いったい何故だろうか。と思っていました
このあたりのことも書いてあります。どうも,ナチスあたりの優性思想に対する反省から,人間のことを遺伝子をベースに分析することに対する抵抗感が強い時代が長く続いて,その中から人間の行動は先天的な遺伝子ではなく,後天的にすべて決まるというような社会学の方向性(この本の中では標準社会学と読んでいた気がします)が生まれたということのようです。つまり,人間と動物とは全く違う,ということのようです。
アメリカでは,進化論を受け入れずに,「人間が猿から進化したなんて冗談じゃない。人間だけは違う」と信仰している人が多くいると聞いています。ジェンダー論というのは,それと同じような思想傾向なのかなという気もします。
この本の進化心理学というのは,全く逆の方向で,まずは遺伝子に操作される人間像から考えていくことになります。自然淘汰によって,今のような行動をする男と女が生き残ったという論理の流れです。
この議論の方向で説明できることも多々あります。反面,この本の議論では,男は女の目ばかり意識して行動(またはその逆)していることになっていますが,現実には同性の評価というものは意識の中でかなり大きなウエイトがあります。もう少し説明の理論の深化が必要そうです。





時間は存在しない
生物学系の本が多い中で,久しぶりに物理学系の本です。 物理学系の本は,はじめは面白いのですが,本の半分くらい読んだあたりで頭の中が飽和して(数式や定義の理解がおっつかなくなってきて)降参することが多く敬遠していました。
時間は客観的に存在しないのでは,というのは自分の中での中心的な課題ですが,そこにドンピシャの本です。ループ量子重力理論というものを専門とする物理学者が書いています。
難しいことを分かりやすく書く能力が高く,そういうものを読む気持ちよさがあります。ちゃんと理解できたかというと,そうでもありませんが。

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