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仮想通貨(暗号資産)の相続手続

火曜日, 8月 16th, 2022

仮想通貨の保管方法としては、国内の取引所、海外の取引所、自らのウォレットでの管理の3通りがある。相続手続はそれぞれで大きく異なる。



国内の仮想通貨取引所での相続手続



bitFlyer、コインチェック、GMOコイン、DMM Bitcoin、FTX Japan、BITPOINT、LINE BITMAX等の国内の仮想通貨取引所での相続手続は、国内で銀行口座や証券口座を持っている場合と大きく異なることはなく、海外取引所やウォレット管理にに比べると容易である。



国内の取引所



その取引所に契約者が亡くなった旨の連絡をする。
取引所の指示に従って、戸籍謄本類や相続人が署名押印すべき書類を用意し提出する



という流れになる。



取引している取引所が不明な場合



亡くなった人のメールをみることができる状況であれば、メールに手かがりがある可能性が高い。
また、取引所への入出金は銀行口座から行うことが多いので、銀行口座の入出金履歴に手がかりがあることも多い。
仮想通貨の取引をしていたと思われるが、どの取引所と取引しているか不明な場合は、各取引所に個別に照会して確認する



生前の対策(仮想通貨の相続)



遺言書を作成する場合には、取引所の名前を明示する。遺言書を作成しない場合でも、どこの取引所と取引していたかを遺された人が把握しやすいようにしたおいたほうがよい。
なお、後述の通り、海外の取引所や自らのウォレットに仮想通貨がある場合、相続手続きが困難だったり、不可能になる可能性がある。万が一の可能性がある場合は、できる限り国内の取引所に保管したほうがよい。



海外の仮想通貨取引所での相続手続



バイナンス等の海外の仮想通貨取引所の口座開設の必要性



現状、国内の取引所では購入できる仮想通貨の種類やできることが著しく限られている。たとえば、
・ブロックチェーン上のゲーム等をする場合に必須のネイティブトークンが入手できない。
・ステーキングや流動性供給のような、仮想通貨の基盤を維持に協力することによってインカムゲインを得る手段がない
等という状況である(2022年8月現在)。
そこで、仮想通貨の値上がり益だけを期待するのであれば国内の取引所だけでよいが、より具体的な仮想通貨の有用性に踏み込んでいこうとすると海外の取引所で口座開設をせざるをえない実情がある。
海外の取引所での口座開設というと、よりハイリスクハイリターンな仮想通貨を購入して儲けることを期待してるように思えるが(そういう方も少なからずいるとはいえ)、実際にはむしろ逆と言える。



日本に支店のない海外の銀行に口座を開設することもできますが、そのような事案はレアであり、従来はあまり問題になりにくかった。
しかし、仮想通貨の海外取引所については、インターネットで簡単に口座の開設ができること、上記のように口座を作る必要性があることから、今後、大きく問題になると思われる。



日本法に基づいた手続は期待できない



日本法の枠内での相続手続は預金であれ不動産であれ何であれ、前記国内取引所で記載したように
・戸籍謄本類によって相続人であることを証明する
・相続人全員が手続きに合意していることを示す。
の2つを満たせば、通常はスムーズにすすむ。それでもうまくいかない場合は、日本の裁判所で訴訟手続きをすれば名義変更を強行できる。



しかし、海外の取引所について、このような手続きがスムーズにいく保証はない。日本語を解するスタッフがいる保証もないし、ましてや戸籍や日本法に基づく相続の常識を理解している可能性も低い。
このような状況で、契約者本人が死亡した旨を連絡した場合、口座を凍結された上で、日本では入手不可能な書類を要求される等の展開に発展し、あきらめるか、見通しも不明で高額の費用がかかると見込まれる海外での訴訟手続きをしてみるか、というような究極の選択に陥る可能性がある。



現状で考え得る上策



そこで、次のような手続きをとるのが現在のところ上策と思われる。なお、国内の財産の相続財産については一般的には法律実務上するべきでないとされる方策も含んでいる。なので、国内の財産(国内仮想通貨の取引所を含む)については、このような方法は非推奨である。
また、これどおりにしたからといって手続きスタックしない保証があるわけではない。自分がそのような状況になった場合、考えうる方策というレベルである。



まずは、その海外仮想通貨取引所に対して、誰の件か明らかにせずに、一般論として、日本人が亡くなった場合の相続手続きを尋ねるメール等を送付してみる(英語でのメールになる可能性もあると思われる)。
その結果、日本の戸籍の提出等、日本法に精通していると思われる対応があった場合は、それに乗ればよい。



メールに対する返信がなかったり、要領を得なかったり、日本法上、困難な手続きを要求されていると思われる場合。その海外取引所のログインID,パスワード、連絡メールアドレス、2段階認証の電話番号等のいくつかを把握できているようであれば、相続人全員での合意のもと、適宜手続きをして、相続人の代表が管理する仮想通貨口座に送金する。
なお、この方法は、引き出せなくなるよりマシとの判断でのやや強硬策なので、慎重な判断が必要である。後日、この行為が問題視されたときに、裁判で違法と判断されるリスクがないとは言えない。できるだけ、そのリスクを下げるにはどうしたらよいかは、弁護士への相談をおすすめする。



いずれの方法でもうまくいかない場合に、海外取引所に対して直接、契約者がなくなった旨を伝えて手続きを確認する。



取引している取引所が不明な場合



亡くなった人のメールをみることができる状況であれば、メールに手かがりがある可能性が高い。



海外取引所しか保有していない場合はマレで、通常は国内取引所にも口座がある。というのは、日本円を仮想通貨を換金するには、通常、国内取引所の口座が必要だからである。
そこで国内取引所に対して残高だけでなく、送金先の一覧の開示を求める。そこから海外の取引所が判明する可能性も高い。
また、送金先がアドレスだけの場合は、各種ブロックチェーン・エクスプローラーの類を利用して、調査検討することで海外取引所が判明する可能性もある。
クレジットカードによる入金に対応とするところもあるので、クレジットカードの履歴が手がかりになることもある。



生前の対策(海外の仮想通貨取引所の相続)



生前に、海外の取引所のパスワード等を知らせて置くことは、諸事情から難しい場合が多いと言える。
そこで、たとえばパスワード紛失時にメールアドレスと携帯電話番号が必要なのであれば、万が一のとき、遺された人がそれらを復旧できるかを考えてみる。
たとえば、メールアドレスのパスワードを自分以外知らない場合
携帯電話会社やケーブルテレビ等、本人確認がしっかりしているところで作ったメールアドレスであれば、死亡後の相続手続きによって、遺された人がメールを引き継げる可能性が高い。
逆にgmailのように本人確認がほとんどなくメールアドレスを作成できる場合、遺された人がgoogleに連絡をとっても手続をすすめることは難しいと思われる→メールのパスワードの再設定の場合の手続として自らの携帯電話等を利用できるようにしておく→携帯電話を相続人が相続手続きで利用できれば、メールのパスワード再設定ができるような段取りを考えておく。



ウォレットで仮想通貨を管理している場合の相続手続



ウォレットというのは、自ら仮想通貨を管理する方法である。chrome等のブラウザの拡張機能として利用したり、スマートフォンのアプリとして利用したりするものや、USBに挿して利用するもの等がある。



有名なものとしては、メタマスク(イーサリアム、ポリゴン、バイナンススマートチェーン等に対応、chromeの拡張期のやスマートフォンのアプリとして利用する)phantom(ソラナのウォレット)、ledger(USBに挿して利用する)、Trezor等がある。



ウォレットで管理している場合、誰かに手続きをしてもらうということはできない。なので、パスワードもシードフレーズも不明な場合はどうにもならなくなる。



ウォレットの仕組みとしては、次のようなものが多い。
・既にウォレットが設定済みのブラウザ、PCやスマートフォンで操作する場合は、パスワードがわかれば操作できる。
・新たなブラウザ、PCやスマートフォンに設定する場合は、英単語12個または24個等のシードフレーズというものを利用して設定できる。設定済み端末でパスワードを忘れた場合も同様。



ウォレットがわかっている場合の相続手続き



スマートフォンにメタマスクや phantom がインストールされている。
chromeの拡張機能にメタマスクやphantomがインストールされている。
ledger等のハードウェアウォレットがある



といった場合、ウォレット内に仮想通貨が存在している可能性が高い。
このような場合、パスワードがわかれば仮想通貨を動かすことが出来る可能性が高い。



パスワードがわからない場合は、シードフレーズがどこかに残っていないか探すのも手である。パスワードの場合、使い回しが可能なので、パスワードをどこにもメモしていない可能性もある。その場合、探し出すのは難しい。
しかし、シードフレーズは一方的に設定される。しかも、12個とか24個の英単語なので、どこかにメモしている可能性が高く、探す目的物としても探しやすい。



パスワードもシードフレーズも秘密鍵(※)もわからない場合は、事実上、資金を動かすのは不可能と思われる。



※ウォレットは秘密鍵を管理するツールだが、秘密鍵自体はメモするのもかなり面倒な文字列なので、これを直接把握するのは、コマンドベースで仮想通貨管理している場合等、特殊な場合と思われる。



ウォレットが不明な場合の相続手続き



国内取引所の取引所からの出金履歴や、仮想通貨のエクスプローラー等を調査した結果、いくつかのアドレスについても本人が管理していたのではないかという場合がある。それ以外にも、ウォレットがあるかもしれないし、ないかもしれないという場合がありうる。



そのような場合、次のような調査をすることになる。
・chrome等のブラウザの拡張機能のインストール状況
・スマホのアプリにウォレットがないか
・ledger等のハードウェアウォレットを持っていないか
・PCに仮想通貨を管理するソフトが入っていないか
・シードフレーズと思われる英単語12個・24個等のメモがないか



生前の対策(仮想通貨ウォレットの相続)



ウォレットの相続の生前の対策は、なかなかよい案が思いつかないというのが率直なところである。
シードフレーズをどこかに残しておけば、それを手がかりにウォレットの復旧をできることになるが、逆にシードフレーズを見られたら、ウォレットの仮想通貨を自由に出されてしまうリスクがある。
なので、家族のそういう部分での信用状況と、万が一の際にウォレット財産が引き出し不能になるリスクとの兼ね合いを考えるしかない。
このような状況から、あまり高額な仮想通貨をウォレットで保管することは、少なくとも相続手続きの観点からは推奨しにくい。
高額の仮想通貨をウォレットで保管する必要がある場合は、シードフレーズの一部を家のわかりやすい場所に保管するとともに、残りの一部を誰かに託しておき、万が一の場合に家族に伝えてもらう等の工夫が必要なると思われる。